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本研究の意義と必要性

 日本はこれまで、10年連続で世界第一位のODA供与国として、アジアをはじめとした開発途上国の発展と安定、さらには貧困の削減に貢献してきた。最近は削減傾向にあるにせよ、世界のトップレベルのODAは、国際社会への影響も大きく注目を集めてきた。しかし、近年、国民世論のODAに対する見方には批判的なものも多い。厳しい経済・財政事情の中でわが国がなぜこれほど大規模なODAを行う必要があるのか疑問が投げかけられている。こうした中で、開発援助と平和構築との関係について包括的なアプローチをすることは、9.11アメリカ同時多発テロ後の錯綜した国際関係の文脈において特に不可欠になっている。同時多発テロ後の国際社会は、米国が主導する「テロとの戦い」という新しい戦争の展開により、アフガン戦争、激化する中東紛争など、情勢は不安定である。本研究は、開発援助が世界平和へどのように貢献しうるかを検証するものであり、現代的意味をもつ。日本の開発援助をより効果的により戦略的に位置づけるためにも、開発と紛争の相互関係の研究は意義があるといえる。

 紛争の原因を除去し、民主化を定着させるためには、構造的原因である貧困やその背景にある社会的不公正・不正義の解消に向けた社会・経済開発が緊急の課題となる。開発と紛争の包括的な把握は、えてして開発と紛争を別々のものであるかのように扱ってきたこれまでのディシプリンの在り方を問い直すものであり、重要性を増している。アメリカ中心のグローバリゼーションが進む中で、社会的不公正の増大が問題視されている。紛争を開発の視点から分析し、開発の視点からの解決策を模索することは、こうした国際情勢のなかで急務となっている。

 人道的緊急支援は、人権擁護の立場から積極的になされるべきである。この時、各国政府、国際機関や国際NGOとのスムーズな連携が必要なことは言うまでもない。しかし、人道的緊急援助は、決して肯定的な効果ばかりではないことも認識する必要がある。つまり、緊急援助自体が紛争の新たな火種になったり、当該国での不正や不公平の増大を招いたり、紛争を長引かせる要因となったりすることも稀ではないからである。人道的緊急援助が当該国、そして当該国の国民の自立的な開発を促し、中・長期的にみても紛争の構造的原因の減少に繋がるものにすることは、重要な視点である。この研究の実践的意義の一つである。

 開発と紛争の問題はそれぞれ開発学、あるいは経済学と国際政治学が中心となって取り組んできた課題である。専門的なアプローチができたのではあるが、その相互の関係に関しての極めて重要な研究に関しては包括的なアプローチができず、現実の要求に応えることができなかった。この研究は、開発学、経済学、国際政治学、国際法学、社会学、政治学など相当に独立性の高い学問領域を学際的に結ぶものであり、問題解決の新たな突破口を切り開く可能性を秘めている。国際機関論や国際NGO論、平和学など新たな研究分野とも積極的に関わりあい、極めて学際性の高い方法論を確立することが求められる。同時に、本研究の学術成果は、平和構築のための積極的な実践政策を提示することで、これらの諸領域へ還元することが期待される。


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