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これまでの研究経過

i)平成14年度基盤研究(C)『「紛争と開発:平和構築のための国際開発理解協力」研究のための企画調査』(研究代表:佐藤安信)[340万円]を受けて、まさに本研究の準備を進めている。この基盤研究(C)の研究では、紛争と開発の関係を検証し、テロや武力紛争の要因を除去し、紛争を平和裏に処理するシステムを構築するための開発協力の可能性を探り、アジアの視点から平和構築のために、国際開発協力理解を推進する上で必要とされる理論を深め、その実務に資するための学際的研究を企画するための準備を行っている。また、「開発援助」「人道援助」「平和構築」という3つの重要なコンセプトを中心に、国際機関と国際NGOとの関わりを整理している。

 この基盤研究(C)は、国際的な視野からの調査・研究の準備という位置づけであり、問題の大きさから考えても、実質的な調査をすることは、予算的にも困難である。本格的な調査のためには、その性質上、政治、経済、社会、法律、文化、情報などに関する社会科学の各分野に跨る学際性を有し、かつ国際性と地域性の複合的視点を必要とする。また、実務的な貢献をめざすことから、研究機関以外の開発援助にかかわる実務者との国際的な共同研究が重要である。

 こうした大型プロジェクトの準備として(1)コンセプトの整理、(2)情報の収集、(3)国際機関、国際NGOとの連携の強化、(4)様々な視点からの研究会の実施、などが行われている。「紛争と開発」研究会と称した研究会では、これまでに中西久枝「中東・中央アジアの紛争―カスピ海資源の開発と環境保全」、佐藤安信「紛争と開発」、大平剛「旧ユーゴ地域における紛争後復興の状況と日本のODAによる取り組み」、児玉克哉「国際平和研究学会と平和学の動向」が開催されている。

 国際機関や国際NGOとの連携もこの準備的研究の中で位置づけられており、これまでに以下の機関・団体と連絡をしている。


(1)研究機関や国際学術団体とのネットワーク

 国内においては、日本国際問題研究所、広島平和研究所、広島大学平和科学研究センター、アジア経済研究所、国外においては、ハーバード大学ケネディ・スクール、シンガポール国立大学などがある。国際学術団体としては、国際平和研究学会(IPRA)、アジア太平洋平和研究学会(APPRA)などと研究協力関係にある。


(2)国内政府機関とのネットワーク

 国内の政府系機関との連携としては、国際協力事業団 (JICA)、アジア太平洋安全保障会議 (CSCAP)、総合研究開発機構(NIRA)、(財) 日本国際交流センタ― (JCIE)、(財) 日本国際フォーラム(JFIR) がある。


(3)国際機関とのネットワーク

 国際機関との連携も深めてきた。特に本研究で重要と考えられるのは、UNDP、UNICEF、 UNHCR、 UNESCO、世界銀行、UNCRDなどである。


(4)国際NGOとのネットワーク

 国際NGOとの連携も重要である。International Alert, Human Rights Watch, Amnesty International, Oxfam、国境なき医師団、日本国際ボランティアセンター、スイス平和財団、イランのUNHCR(テヘラン)などとは、恒常的に情報の交換を行っており、研究においても協力が期待できる。

 このネットワークを十分に活用することによって大きな成果が期待される。

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ii)平成13・年度萌芽的研究『貧困と法』(代表:佐藤安信)[190万円]を受けて、紛争を平和的に処理する手段の1つである法制度の整備と、紛争の構造的原因である社会的な不公正や排除による貧困問題を有機的に結びつける研究をしている。当初の目的は、開発援助における近時の法整備支援実務の目的、手段を批判的に検討し、貧困緩和の観点から「開発と法」の理論のパラダイムの再構築と実践的な提言をめざした。これまで10回の研究会で貧困と法それぞれの概念、両者の関係について学際的見地から理論研究する一方、カンボジア、タンザニア、中国、ベトナムなどの事例研究を重ねた。その結果、開発における多様な規範、価値観の尊重の重要性が明らかになってきている。これは、開発における平和配慮、紛争予防・再発防止のための開発の基礎的な研究と位置づけられる。すなわち、これまで等閑視されていた社会規範や慣習法が開発と紛争の研究で重要なテーマとされる。

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iii)平成11年度、12年度の科学研究費・基盤研究(C)においては、「難民問題に関する非政府組織の機能についての調査研究」(代表:児玉克哉)[総額430万円]を行った。この研究は、難民支援の非政府組織に焦点をあてて、それがどのような組織を持ち、どのような活動を行っているかを明らかにしたものである。日本国際ボランティアセンターなどの活動を中心に取り組んだ。調査項目は、団体の概要、特色、活動の詳細、予算などであった。この研究においては、非政府組織、難民、自治体の三つの相互関係にも言及した。しかし、ここでの非政府組織は日本をベースにするものであり、海外の状況との比較研究・考察はできなかった。ここでの国際NGOの研究をさらに発展させて、開発や紛争の問題と積極的に絡めさせて行うのが本研究である。

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iv)本研究を構成するメンバーは積極的に「紛争と開発」の問題の研究会を形成してきたが、名古屋大学大学院国際開発研究科の全面的な支援を受けて、本研究の中心メンバーの参加により開催した2002年3月26日の「紛争と開発」シンポジウムは、特に重要な位置を占める。発表者に明石康氏(元国連事務次長)と早稲田大学大学院教授の小和田恆氏(元国連大使)を招き、紛争と開発に関して議論を行った。本研究グループからは、佐藤安信がコーディネータとなり、中西久枝と児玉克哉が討論者となって、紛争を視点に入れた開発のあり方について論議を交わした(その直前の3月21日から24日まで佐藤安信は、小和田氏の代理としてシンガポールで開催されたシンガポール国立大学とハーバード大学ケネディ・スクール共催の「平和のための正義」シンポジウムに参加し、研究協力を模索)。明石氏と小和田氏という貴重な実践をされてきた人の問題提起は、本研究を準備する上で極めて重要なものとなった。実践的な課題をどのように理論的に結びつけていくのかということが、今後求められるという結論となり、本研究の企画がさらに具体的になってきた。

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v)名古屋大学国際開発研究科GSIDセミナーシリーズの開催も本研究の企画には大きな意味を持つ。名古屋大学国際開発研究科では、特に下記にあげるものは、開発と紛争の相互関係を探るために本研究の代表である佐藤安信や中西久枝、大坪滋、櫻井龍彦、大平剛らが、有志の学生のイニシアティブを得るなどして企画・運営してきたものである。シリーズの各セミナーは各々外務省、文部科学省などの公的予算ないしは、民間の寄付などにより行われた。

2001-10-10 今川幸雄 教授(前カンボディア大使、現関東学園大学法学部教授):国造りと支援外交: カンボディアの事例から
2001-10-04 中西久枝教授(名古屋大学大学院国際開発研究科):対米テロ事件をどう捉えるか−アジアの視点から
2001-06-10 GSID市民フォ−ラム:人道援助のジレンマ−国境なき医師団の事例から−
2001-05-28 トロン・メアリー前駐日カンボジア大使:カンボジアの和平と復興-民主化とNGOの役割を中心に
2000-06-10 パネルディスカッション「平和構築と日本の国際協力」
2000-06-07 平和構築ワークショップ:「エリトリア×エチオピア紛争」討論会

 こうした研究会をベースにして、本研究は企画されている。

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vi)児玉は、1997年・999年にトヨタ財団研究助成によって、「国際連合における国際非政府組織を中心とした新民衆機構設立に関する研究」(研究代表者:児玉克哉・助成額600万円)に取り組んだ。国連ミレニアムサミットへ向けての国際NGOの活動やハーグ平和アピール集会の取り組みなどを実証的に調査する中で、世界市民会議 (World Citizens Assembly) 、民衆議会 (People's Congress) 、平和な地球のための団体の世界会議 (World Congress of Organizations for a Peaceful Earth)、国連議会会議 (U.N. Parliamentary Assembly)の動きを明らかにした。この国際NGOの研究は、本研究においても開発と紛争における国際NGOの役割を明らかにする上で、大きな意味を持つ。国際NGOは、いうまでもなく、開発と紛争においても重要なアクターとなってきており、注目する必要がある。こうした研究の蓄積は、本研究においても重要である。


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