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第3回[2003/09/19]

参加者

研究会メンバー:新垣、大平、児玉、櫻井、佐藤、中西、二村
アシスタント:山本、杉本、早川

今後の予定

佐藤:

始めに次回の予定について話しておきたい。日程は1月30日(金)で、公開研究会は大坪さんに発表していただく。
  あと、予算の執行について決めたい。シンポジウムの開催を提案したい。来年2月で、NGOに報告してもらって、当研究会への要望を聞くものにしたい。それを受けて、来年度以降の研究を絞り込んでいく。
  成果物として出版物を考えるなら、来年の早い時期に担当と原稿の期日を決め、計画的に進めていきたい。

新垣報告

新垣:

簡単に概要だけを述べたい。詳細に関しては、スリランカ出張のデータを使ってまとめており、緊急報告書として皆さんに提出したい。
  9月にスリランカへ1週間ほど行ってきた。限られた時間と場所だったが、主に政府関係者やNGOを回った。訪問したNGOは平和構築NGOとでも呼ぶべきもので、緊急援助と開発の間のギャップを埋めることを意図しており、非常に興味深かった。
  大きな目的としては、難民についての調査であった。ある統計データによると、スリランカには現在80万人程度の国内避難民がいる。人口は1900万人ちょっと。2月に停戦してから、自主的帰還をした人がすでに30万人位いる。
  国連は平和の枠組みが未完成で危険だという理由で、フォローはしているが、エンカレッジはしていない。UNHCRは帰る人についてはサポートしようという事で、例えば土地を用意したり、家財道具の一部を与えたりしている。カンボジアなどと同様に土地が問題で、数字の上では存在するけれど、荒地だったり、地雷が点在したり、所有権の問題があったりする。
  もう1つ重要なのが、難民の移動自体が、単純にデータとして動くだけではなくて、非常にダイナミックなプロセスであり、政治的な要素をかなり持っていることである。彼らは投票を通じて、構成員として、地域のバランスに大きな影響を与える。
  こういった他の地域の難民問題にも見られる共通点、あるいは新しい独特な問題を見る事ができた。これらについては、いつか研究報告として詳しく述べたい。

* * *

当研究会の運営と関連する話題が2点ある。1点目は、平和構築NGOはネットワーキング化を非常に重視しており、研究にも一生懸命に取り組んでいる。そこで、当研究会ともぜひネットワークしたいとの申し出があった。

2点目は、UNHCRスリランカオフィスから変わったオファーがあった。「帰還民が、人権問題も含めてどういう状況にあるか?」「どういうニーズがあるか?」について調査してほしいとの要望で、特に人権や法律などに関しては全くデータがないので、リサーチをしたいとの事。返事は保留しているが、交渉の余地はある。

報告に関わる意見交換

児玉:

平和構築NGOはどんな活動をしていますか?

新垣:

規模がいくつかある。直接、和平交渉にアクターとして関わっている訳ではない。ロビーイングとデータ収集、あとは小さなプロジェクトを色々とやっている。和解や市民間のダイアログの構築など。
興味深かったのが、セクションの中に広報機関があり、リーダーシップを発揮している。メディアと平和構築の関係にも関心を持って、活動しているようだ。

* * *

佐藤:

コロンボ大学の先生から、平和構築関係の研究員を募集するのに、日本側のカウンターパートになってくれないかという申し出があった。具体的に何をするのか明確ではないが、今後コロンボ大学と協力する可能性はある。

新垣:

コロンボ大学の数名と会ったが、名前などをチェックしていないので、関連性は分からない。

佐藤:

下手にイエスと答えると、負担が来る可能性もある。全体的にOKということではなく、個別に検討しようと返答した。スリランカ側でも、日本に興味を持っているという事があるようだ。
  研究会にはスリランカの専門家がいない。日本平和学会でスリランカの発表をしていた一橋大学の方に、もし協力をお願いできるようならしていく。スリランカも扱っていくべきか?

新垣:

難民については、規模やUNHCRの歴史的関わりから言っても、当然取り扱うべきである。但し、研究会にスリランカの専門家がいないという問題はある。

児玉:

スリランカの専門家ではないが、福祉の関係で2年間滞在していた人が三重大学にいる。

新垣:

スリランカには研究成果や実績が多く残っており、研究会としては外すべきではない。ジレンマを感じる。

児玉:

IPRAにも研究者はいて、連絡する事はできる。

佐藤:

これについては検討していく。

児玉:

スリランカを扱うなら、カシミールをどうするのかという課題も出てくるかもしれない。

大平報告

大平:

10月28日にUNDPの東京事務所を訪問した。これは、新垣さんがUNDP本部を訪問した際に、東京事務所も巻き込んだ方が良いのではないかとアドバイスされたことを受けたもの。
  趣旨を理解し、何らかの形で協力するとの返答を得た。但し、東京事務所の位置付けはUNDPの中でも特殊で、下に統括する現地事務所がある訳ではない。現地事務所との間の仲介といった協力しかできない模様。現地で調査をする場合には、成果物をフィードバックして欲しいとの事である。また、なるべく英語にして欲しいとの要望も出された。
  国連を取り上げるならば、東ティモールの事例を取り上げたい。もし来年行くなら、国連のミッションで副代表を務めているAさんにコンタクトを取れないかと考えている。ただ、任期が来年まであるか不明。他にも日本人職員がいるようなので、協力してもらえればスムーズにいくだろう。しかも東ティモールの場合、日本がかなり積極的に支援しているので、UNDP東京事務所としても連絡が取りやすい。
  もう1つ、国連大学(UNU)と連携してはどうかと提案された。これに対しては、当研究会としては現場との連携を強化したいと強調しておいた。ただ、平和構築や早期警報についての書籍を出しているBさんと連絡を取るのは良いだろう。シンポジウムを開催するなら、東京事務所の代表やBさんにも参加してもらえると良い。
シンポジウムに関しては、いくつかの国際機関関係の方から、横断的に、国際機関が考える平和構築についての話を聞ける機会があれば良いと考える。

報告に関わる意見交換

佐藤:

国連大学で、誰か関係している方はいますか?

中西:

よく知っている人が1名いるので、そこから該当する人を紹介してもらえるのではないか。

佐藤:

国連関係を招いたシンポジウムは検討しても良いだろう。

児玉:

一度は国連大学の方と話をすると良い。

中西:

ただ、国連大学の研究員には、研究志向で実務志向ではない方が多いようにも感じる。

佐藤:

Bさんには、大平さんが一度出張して、会ってきてもらえないか?

大平:

そうですね。

児玉:

UNUを扱うならば、武者小路先生がいる間に研究会をしても良い。

佐藤:

それはお任せする。UNUを扱うならば、武者小路先生がいる間に研究会をしても良い。

早川報告

早川:

東ティモール訪問の大きな目的は、1999年紛争後の平和構築活動についての聴き取り調査及び現地視察である。本日は、平和構築研究会と大きな関わりがある3団体の聴き取り調査の結果を報告する。
 まずはJICA。JICA全体としては平和構築支援への取り組みを強化しようという流れだが、東ティモールでは今のところ社会経済基盤の整備が中心で、平和構築を直接支援するような具体的な活動は行ってこなかった。今後はこの方向性を見直し、NGOからの要請があった場合には、平和構築支援にも積極的に関わっていこうとしている。既に沖縄のNGOから接触があった。そこは、元兵士の社会への再統合を支援する活動を行おうとしている。
  続いてPWJ。PWJの東ティモールにおける活動も、直接平和構築を支援するものではない。これまでの活動としては、まずは緊急支援、続いて既に技術を持っている人の仕事を再開させるために資材を提供するインカムジェネレーションを行ってきた。現在は日本市場をターゲットにしたコーヒーの輸出に取り組んでいる。
当研究会の趣旨を説明し意見を求めた所、それぞれの地域紛争には地域性があるので、1つの平和構築手法を当てはめるべきではないとの事であった。また、復員兵士のような影響力のある人を反政府活動にコミットさせないように再統合を進めていく事が重要であり、PWJの事業の受益者の多くは元兵士およびそのサポートをしていた人々なので、平和構築においても意義がある。
  最後に東ティモール受容真実和解委員会。真実探求部門歴史調査アドバイザーに大阪外語大学の松野さんが就任しているので、インタビューを行った。委員会は「受容」「和解」「真実」の3本柱で活動している。
「受容」は西ティモールに逃れた難民や国内避難民の受け入れを目的にしているが、声掛け程度の活動しか行っていない。現在は難民の総数もかなり減っており、しかも残っているのは東ティモールに戻るつもりのない人が大半である。
 「和解」は、元民兵がコミュニティーに受け入れられていないという状況を背景に、元民兵が自らの罪を告白し、コミュニティーによって決められた贖罪の方法を実行し、コミュニティーに再統合されるという流れで行われる。300回ほど開いてきたが不十分であり、委員会終了後は東ティモール政府が継続すべき。そのためのモデルを示すのが最大の目的である。最大の課題は、対象が1999年の軽犯罪のみに限られている事である。
「真実」は、過去29年間の全ての調査を行っている。しかし、調査には多くの困難が伴っている。例えば、現政府側の勢力が犯した罪や子どもがインドネシアにいる場合などは、現在の悪影響を恐れて話してくれない。告白しても大きなメリットがなく、調査は進みにくい。また、コミュニティーの同意を得て連行された慰安婦のケースなどでは、加害者が誰か判断しづらく、関係者にも罪の意識があるために口を開いてくれない。
  総括として、平和構築はかなりケースバイケースであり、対象地域を深く理解しないとできない。一般的なモデルケースを作っても有効ではない。和解委員会も世界で20程度開かれており、有効なのだと判断できるが、内容的には全く別々である。東ティモールの場合には、日本を初めとする大国の思惑によってインドネシアを裁けず、「正義」をあいまいにしている所に大きな問題点がある。東ティモールとインドネシアで共通の基準で裁くべきである。

報告に関わる意見交換

佐藤:

根本的な問題である。ただ、共通項はあるのだから、共通の手法もあり得るのではないだろうか。

中西:

私は個別の要素は大きいと考えている。各ケースはそれぞれ特殊で、検討することが重要である。あるケースに関して、これをクリアすれば良いというハードルがあったとしても、それが他の紛争に当てはまるとは限らない。

佐藤:

もちろん実施的な点は違ってくる。しかし、歴史や資源などをチェックするといった視点は、共通してあり得ると考えている。

大平:

例えばルワンダの場合、国際社会が介入してアルーシャに刑事裁判所を設け、そこで大物を裁いた。しかし、現地の人は自分達の手で裁きたいと考えている。東ティモールやユーゴなどでも同様で、結果的に禍根を残している。国際社会が介入した事によって、逆にうまく行かない場合もあるのではないか。

佐藤:

しかし現地に任せていては、復讐が続き、紛争の連鎖が断ち切れないのではないか。

児玉:

裁判のような制度的なものだと共通のものが必要になるだろう。
  さまざまな方法が蓄積されるが、確かに個々のケースで有効性は違う。しかし、完全に別個にしてしまうと、そこにしか適応できなくなってしまう。タイプによってグループ分けをすべきだろう。グループ分けをするには、事例の数が必要になってくる。個別かグループ分けかで方向性が分かれる。

佐藤:

いずれにせよ、完璧なものは難しい。特殊な事情とともに、共通項を増やしていくという事をやっていかざるを得ない。

杉本:

1つ補足したい。個別的なものを突き詰めていくと、共通なものが出るという事もある。東ティモールでは当事者の許可を得て、事件の真実をテレビ放送し、本当に悪いのは何なのかを考えるきっかけにもなった。一筋縄ではいかないが、調べていく事は重要である。また、国の財政から見ても非常にメリットがある。そういうメリット・デメリットを拾い上げていくと、実はこういう意味があったのだという事が分かる。

佐藤:

東ティモールは研究対象としておもしろい。

新垣:

和解については、UNDPに行った際にもぜひやって欲しいと言われた。できる限りケースを拾っていくべき。佐藤先生がカンボジアに行った時に、デモンストレーションを見てきて、報告して欲しい。また、沖縄などにも蓄積されている。

佐藤:

少年犯罪を中心に、被害者の会が組織されるケースが増えてきた。モダンの考え方に限界が来ていて、もう少し人間的なアプローチがあり得るのではないかと考えられている。法律で裁いても、実際には当事者同士では解決になっていないという限界がある。

児玉:

和解は重要である。日本が協力しやすい分野でもある。

アウトリーチ活動

佐藤:

内閣官房「国際平和協力懇談会」におけるブリーフィングについては資料を参照の事。ODA大綱で平和構築が大きな目玉になってきている。人材育成については、JICAも含めて、具体的に検討中である。
  国際開発学会東海支部では、資料にあるように、私が国際開発理論の流れを、児玉先生がNGO活動の観点から発表した。
  今後の研究会としては、若手の研究者を育てるという意味で、学生部会のようなものを設けたい。山本さんに中心になってもらう。興味があるという学生が増えており、そういう人達に活動の機会を与えられる。

中西報告

中西:

JICAの短期専門家という事で、10月24日から31日までカブールに行った。その時の感想を簡単に述べたい。
  和解という枠組みは、紛争後の再発予防という意味がある。長期的な意味での和解を考える時には、開発援助や協力における公正配分というものが重要である。その視点から、日本がアフガニスタンに対して行っている教育支援を今後どうすべきかを考えた。
  道路などの復興は進んでいるが学校の復興は遅れており、イランにいるアフガン難民の方が恵まれていると思わざるを得ない程であった。難民の帰還問題を考えるにしても、アフガニスタン自身の復興を進めていかないと解決しない。それが1点。
  2点目として、教育以前に産業育成を進めていかないといけない。教師の育成をしようとしても、生活の保障がなければ、長期間の訓練を受ける余裕はないとなってしまう。単に教育支援だけでなく、産業育成や武装解除などと共に総合的に捉えないといけないだろう。
  もう1点はJICAの問題かもしれないが、組織としてアフガン復興をどう進めていくのかという体制がないように感じた。他の国際ドナーとの協調をどうするかについてもビジョンがない。
  世銀とUNICEFの人とも話をしたが、教育支援に関しては各国際機関がアドホック的にやっている。それぞれの役割分担も調整もできてない。ただ、教育省の中にプログラムセクリタリアートが設けられ、調整しようという動きは出てきている。来年の3月下旬からアフガニスタンに行くが、プログラムセクリタリアートでのドナー間の調整が1つの役割になるだろう。ひどい話では、ドイツが作った学校ではドイツ語がオプションになり、フランスが作った学校ではフランス語がオプションになっている。それは植民地的な動きであり、外国のドナーが介入する事によって逆に、ますますアフガニスタンの一体性をなくしていくのではないかと危惧される。

報告に関わる意見交換

佐藤:

私もUNTACの時に感じた。UNTACはまがりなりにも成功したと言われているが、現在また汚職とドラッグの問題が発生している。やはり経済的にうまくいかないから、そういう方向にいってしまう。例え成功しても、フィリピンのように援助漬けになって、独裁政権になって、元の木阿弥になるのではないかという危惧もある。

中西:

アフガニスタンも、いつイラクのようになるか分からない。

佐藤:

アフガニスタンも研究のコアの1つになっていくだろう。

NGOシンポジウム

佐藤:

こうした事を考えると、やはり国益をこえた形でのNGOの活動は今後重要になっていくだろう。そこで、NGOを主役にしたシンポジウムを開催したい。
  新垣さんに原案を書いてもらったプロポーザルを、資料として配布した。メインテーマは、「平和構築におけるNGOの役割と課題」。コンセプトは、「平和構築におけるNGOの経験と現況、政府機関とNGOとの連携等について学び、関連事業の策定、実施及び評価に係る課題を把握することにより、この領域において今後、研究者が果たしうる役割の検討に資する会議」とする。我々はむしろ学ぶという立場であり、NGOの側から体験談などを話してもらい、我々がそれにどうレスポンスしていくのかを考える。参加者はNGOと政府機関、国際機関を考えている。海外からはおそらく3名くらい呼べるのではないか。
  ロジに関しては、CCDIにも協力してもらうことになっている。

一同:

日程に関しては了承。

佐藤:

参加を依頼する団体、特に海外の団体に関しては早く決定したい。

<参加を依頼する団体・人物について具体的に意見交換>

佐藤:

時間がなくなってきたので、後はメールなどで調整する。


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